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…… そういう父の悲しい物語を聞いているうち、私は漸くはっきり目をさましながら、いつのまにか、こっそり涙を流している自分に気がついた。 しかしそれは私の母の死を悲しんでいるのではなかった。 その悲しみだったなら、それは私がそのためにすぐこうして泣けるには、あまりに大き過ぎる! 私はただ、目をさまして、ふと昨夜の、自分がもう愛していないと思っていたお前、お前の方でももう私を愛してはいまいと思っていたお前、そのお前との思いがけない、不思議な愛撫を思い出して、そのためにのみ私は泣いていたのだ…… その日の正午頃、お前たちは二台の荷馬車を借りて、みんなでその上に家畜のように乗り合って、がたがた揺られながら、何処だか私の知らない田舎へ向って、出発した。 私は村はずれまで、お前たちを見送りに行った。 荷馬車はひどい埃(ほこ)りを上げた。 それが私の目にはいりそうになった。 私は目をつぶりながら、 「ああ、お前が私の方をふり向いているかどうか、誰か教えてくれないかなあ……」 と、口の中でつぶやいていた。 しかし自分自身でそれを確かめることはなんだか恐ろしそうに、もうとっくにその埃りが消えてしまってからも、いつまでも、私は、そのまま目をつぶっていた。
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