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2020-07-30

麦藁帽子(30/31)

(656字。目安の読了時間:2分)

しかし私は、そんな周囲の生き生きとした光景のおかげで、まるでお前たちとキャンプ生活でもしているかのように、ひとりでに心が浮き立った。  私はお前たちと、その天幕の片隅に、一塊りに重なり合いながら、横になった。 寝返りを打つと、私の頭はかならず誰かの頭にぶつかった。 そうして私たちは、いつまでも寝つかれなかった。 ときおり、かなり大きな余震があった。 そうかと思うと、誰かが急に笑い出したような泣き方をした。 ……すこしうとうとと眠ってから、ふと目をさますと、誰だか知らない、寝みだれた女の髪の毛が、私の頬(ほお)に触っているのに気がついた。 私はゆめうつつに、そのうっすらした香りをかいだ。 その香りは、私の鼻先きの髪の毛からというよりも、私の記憶の中から、うっすら浮んでくるように見えた。 それは匂いのしないお前の匂いだ。 太陽のにおいだ。 麦藁帽子のにおいだ。 ……私は眠ったふりをして、その髪の毛のなかに私の頬を埋めていた。 お前はじっと動かずにいた。 お前も眠ったふりをしていたのか?  早朝、私の父の到着の知らせが私たちを目覚ませた。 私の母は私の父からはぐれていた。 そうしていまだにその行方が分らなかった。 私の家の近くの土手へ避難した者は、一人残らず川へ飛び込んだから、ことによるとその川に溺れているのかも知れない。 ……  そういう父の悲しい物語を聞いているうち、私は漸くはっきり目をさましながら、いつのまにか、こっそり涙を流している自分に気がついた。

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