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母はそんな私の野心なんかに気づかずに、ただ私の中に蘇(よみがえ)った子供らしさの故に、夢中になって私を愛した。 その高原から帰ると間もなく、私はT村からお前の兄たちの打った一通の電報を受取った。 それは一種の暗号電報だった。 ――「ボンボンオクレ」 私は今度はなんの希望も抱かずに、ただ気弱さから、お前の兄たちの招待をことわり切れずに、T村を三たび訪れた。 もうこれっきり恐らく一生見ることがないかも知れぬ、私の少年時の思い出に充ちた、その村の海や、小さな流れや、牧場や、麦畑や、古い教会を、ちょっと一目でもいいから、もう一度見ておきたいような気もしたから。 それに矢張り、何んといっても、その後のお前の様子が知りたかったから。 私がいままではあんなにも美しく、まるで一つの大きな貝殻のように思いなしていた、その海べの村が、いまは私の目に何んと見すぼらしく、狭苦しく見えることよ! 嘗(かつ)てはあんなにもあどけなく思っていた私の昔の恋人の、いまは何んと私の目には、一箇の、よそよそしい、偏屈な娘としてのみ映ることよ!……それから去年よりずっと顔色も悪くなり、痩せこけている私の競争者を見た時は、私はなんだか気の毒な気さえしだした。 そうして私はますます彼を避けるようにした。
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