(621字。目安の読了時間:2分)
…まったまま、今にもその詩人が私の名を呼んで、その少女たちに紹介してくれやしないかという期待に胸をはずませながら、しかし何食わぬ顔をして、鶏肉屋の店先きに飼われている七面鳥を見つめていた…… しかし少女たちは私の方なんぞは振り向きもしないで、再びがやがやと話しながら、その詩人から離れて行った。 私も出来るだけその方から、そっぽを向いていた。 それからまた、私はその詩人と並んで歩き出しながら、いま会ったばかりの少女たちの名前を、それからそれへと、熱心に、しかし、何気なさそうに、聞いていた。 今まで私によそよそしかった野生の花が、その名前を私が知っただけで、急に向うから私に懐いてくるように、その少女たちも、その名前を私が知りさえすれば、向うから進んで、私に近づいて来たがりでもするかのように。 そんなことのうちに三週間ばかり滞在した後、私は一人だけ先きに、その高原を立ち去った。 私が家に帰ると、私の母ははじめて彼女の本当の息子が帰って来たかのように幸福そうだった。 私がすっかり昔のような元気のいい息子になっていたから。 しかし私の元気がよかったのは、その高原で私の会ってきた多くの少女たちを魅するために、そしてそのためにのみ、早く有名な詩人になりたいという、子供らしい野心に燃えていたからだった。 母はそんな私の野心なんかに気づかずに、ただ私の中に蘇(よみがえ)った子供らしさの故に、夢中になって私を愛した。
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