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2020-07-25

麦藁帽子(25/31)

(682字。目安の読了時間:2分)

落葉松の林の中を歩いていると、突然背後から馬の足音がしたりした。 テニスコオトの附近は、毎日賑(にぎ)やかで、まるで戸外舞踏会が催されているようだった。 そのすぐ裏の教会からはピアノの音が絶えず聞えて……  毎年の夏をその高原で暮らすその詩人は、そこで多くの少女たちとも知合らしかった。 私はその詩人に通りすがりにお時宜をしてゆく、幾たりかの少女のうちの一人が、いつか私の恋人になるであろうことを、ひそかに夢みた。 そしてその夢を実現させるためには、私も早く有名な詩人になるより他はないと思ったりした。  或る日のことだった。 私はいつものようにその詩人と並んで、その町の本通りを散歩していた。 そのとき向うから、或いはラケットを持ったり、或いは自転車を両手で押しながら、半ダアスばかりの少女たちががやがや話しながら、私たちの方へやってくるのに出会った。 それらの少女たちはちょっと立ち止まって、私たちのために道を開けてくれながら、そうしてそのうちの幾たりかは私と一緒にいる詩人にお時宜をした。 彼は何か彼女たちとしばらく立ち話をしていた。 ……私はその時はもう、われにもなく其処から数歩離れたところにまで行っていた。 そうしてそこに立ち止まったまま、今にもその詩人が私の名を呼んで、その少女たちに紹介してくれやしないかという期待に胸をはずませながら、しかし何食わぬ顔をして、鶏肉屋の店先きに飼われている七面鳥を見つめていた……

 しかし少女たちは私の方なんぞは振り向きもしないで、再びがやがやと話しながら、その詩人から離れて行った。

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