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ああ、その手紙に几帳面な署名がなかったら、どんなによかったろうに!…… 匿名の手紙は、いつまでたっても、私のところへは来なかった。 そのうちに、夏が一周りしてやってきた。 私はお前たちに招待されたので、再びT村を訪れた。 私は、去年からそっくりそのままの、綺麗な、小ぢんまりした村を、それからその村のどの隅々にも一ぱいに充満している、私たちの去年の夏遊びの思い出を、再び見いだした。 しかし私自身はと云えば、去年とはいくらか変って、ことにお前の家族たちの私に対する態度には、かなり神経質になっていた。 それにしてもこの一年足らずのうちに、お前はまあなんとすっかり変ってしまったのだ! 顔だちも、見ちがえるほどメランコリックになってしまっている。 そしてもう去年のように親しげに私に口をきいてはくれないのだ。 昔のお前をあんなにもあどけなく見せていた、赤いさくらんぼのついた麦藁帽子もかぶらずに、若い女のように、髪を葡萄(ぶどう)の房のような恰好に編んでいた。 鼠色の海水着をきて海岸に出てくることはあっても、去年のように私たちに仲間はずれにされながらも、私たちにうるさくつきまとうようなこともなく、小さな弟のほんの遊び相手をしている位のものだった。 私はなんだかお前に裏切られたような気がしてならなかった。
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