(558字。目安の読了時間:2分)
私の同室者たちのところへは、ときおり女文字の匿名の手紙が届いた。 皆が彼等のまわりへ環になった。 彼等は代る代るに、顔を赧(あか)らめて、嘘(うそ)を半分まぜながら、その匿名の少女のことを話した。 私も彼等の仲間入りがしたくて、毎日、やきもきしながら、ことによるとお前が匿名で私によこすかも知れない手紙、そんな来る宛のない手紙を待っていた。 或る日、私が教室から帰ってくると、私の机の上に女もちの小さな封筒が置かれてあった。 私が心臓をどきどきさせながら、それを手にとって見ると、それはお前の姉からの手紙だった。 私がこの間、それの返事を受取りたいばっかりに、女学校を卒業してからも英吉利語の勉強をしていたお前の姉に、洋書を二三冊送ってやったので、そのお礼だった。 しかし真面目なお前の姉は、誰にもすぐ分るように、自分の名前を書いてよこした。 それがみんなの好奇心をそそらなかったものと見える。 私はその手紙についてほんのあっさりと揶揄(からか)われたきりだった。 それからも屡々(しばしば)、私はそんな手紙でもいいから受取りたいばっかりに、お前の姉にいろんな本を送ってやった。 するとお前の姉はきっと私に返事をくれた。 ああ、その手紙に几帳面な署名がなかったら、どんなによかったろうに!
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