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しかし、その間、母の方では、私のことで始終不安になっていた。 その一週間のうちに、急に私が成長して、全く彼女の見知らない青年になってしまいはせぬかと気づかって。 で、私が寄宿舎から帰って行くと、彼女は私の中に、昔ながらの子供らしさを見つけるまでは、ちっとも落着かなかった。 そして彼女はそれを人工培養した。 もし私がそんな子供らしさの似合わない年頃になっても、まだ、そんな子供らしさを持ち合わせているために不幸な人間になるとしたら、お母さん、それは全くあなたのせいです。 …… 或る日曜日、私が寄宿舎から帰ってみると、母はいつものような丸髷に結っていないで、見なれない束髪に結っていた。 私はそれを見ながら、すこし気づかわしそうに母に云った。 「お母さんには、そんな髪、ちっとも似合わないや……」 それっきり、私の母はそんな髪の結い方をしなかった。 それだのに、私は寄宿舎では、毎日、大人になるための練習をした。 私は母の云うことも訊(き)かないで、髪の毛を伸ばしはじめた。 それでもって私の子供らしさが隠せでもするかのように。 そうして私は母のことを強いて忘れようとして、私の嫌いな煙草のけむりでわざと自分を苦しめた。 私の同室者たちのところへは、ときおり女文字の匿名の手紙が届いた。
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