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「こいつを一服したら……」 「まあ!」お前は私と目と目を合わせて、ちらりと笑った。 その瞬間、私たちにはなんだか離れの方が急にひっそりしたような気がした。 せっかくボンボンやら何やらを持って来てやったのに、自分にはろくすっぽ口もきいてくれない息子の方を、その母は俥(くるま)の上から、何度もふりかえりながら、帰って行った。 それがやっぱり彼女の本当の息子だったのかどうかを確かめでもするように。 そういう母の姿がすっかり見えなくなってしまうと、息子の方ではやっと、しかし自分自身にも聞かれたくないように、口のうちで、「お母さん、ごめんなさいね」とひとりごちた。 海は日毎に荒模様になって行った。 毎朝、渚(なぎさ)に打ち上げられる漂流物の量が、急に増え出した。 私たちは海へはいると、すぐ水母に刺された。 私たちはそんな日は、海で泳がずに、渚に散らばっている、さまざまな綺麗な貝殻を、遠くまで採集しに行った。 その貝殻がもうだいぶ溜(たま)った。 出発の数日前のこと、私がキャッチボオルで汚した手を井戸端へ洗いに行こうとすると、そこでお前がお前の母に叱(しか)られていた。 私はそれが私の事に関しているような気がした。 それを立聞きするにはすこし勇気を要した。 気の小さな私はすっかりしょげて、其処から引き返した。
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