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……ちょっと、やってみない」 「だってラケットはなし、一体何処でするのさ」 「小学校へ行けば、みんな貸してくれるわ」 それがお前と二人きりで遊ぶには、もってこいの機会に見えたので、私はそれを逃がすまいとして、すぐ分るような嘘(うそ)をついた。 私はまだ一度もラケットを手にしたことなんか無かったのだ。 しかし少女の相手ぐらいなら、そんなものはすぐ出来そうに思えた。 お前の兄たちがいつも、テニスなんか! と軽蔑していたから。 しかし彼等も、私たちに誘われると、一しょに小学校へ行った。 そこへ行くと、砲丸投げが出来るので。 小学校の庭には、夾竹桃が花ざかりだった。 彼等は、すぐその木蔭で、砲丸投げをやり出した。 私とお前とは、其処からすこし離して、白墨で線を描いて、ネットを張って、それからラケットを握って、真面目くさって向い合った。 が、やってみると、思ったよりか、お前の打つ球が強いので、私の受けかえす球は、大概ネットにひっかかってしまった。 五六度やると、お前は怒ったような顔をして、ラケットを投げ出した。 「もう止しましょう」 「どうしてさ?」私はすこしおどおどしていた。 「だって、ちっとも本気でなさらないんですもの……つまらないわ」 そうして見ると、私の嘘は看破られたのではなかった。 が、お前のそういう誤解が、私を苦しめたのは、それ以上だった。 むしろ、そんな薄情な奴になるより、嘘つきになった方がましだ。
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