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そして、私のためにお前が泥だらけになったズボンを洗濯してくれている間、私はてれかくしに、わざと道化けて、お前のために持ってやっている花環を、私の帽子の代りに、かぶって見せたりする。 そして、まるで古代の彫刻のように、そこに不動の姿勢で、私は突っ立っている。 顔を真っ赤にして…… ※ 夏休みが来た。 寄宿舎から、その春、入寮したばかりの若い生徒たちは、一群れの熊蜂のように、うなりながら、巣離れていった。 めいめいの野薔薇を目ざして…… しかし、私はどうしよう! 私には私の田舎がない。 私の生れた家は都会のまん中にあったから。 おまけに私は一人息子で、弱虫だった。 それで、まだ両親の許をはなれて、ひとりで旅行をするなんていう芸当も出来ない。 だが、今度は、いままでとは事情がすこし違って、ひとつ上の学校に入ったので、この夏休みには、こんな休暇の宿題があったのだ。 田舎へ行って一人の少女を見つけてくること。 その田舎へひとりでは行くことが出来ずに、私は都会のまん中で、一つの奇蹟の起るのを待っていた。 それは無駄ではなかった。 C県の或る海岸にひと夏を送りに行っていた、お前の兄のところから、思いがけない招待の手紙が届いたのだった。 おお、私のなつかしい幼友達よ! 私は私の思い出の中を手探りする。 真っ白な運動服を着た、二人とも私よりすこし年上の、お前の兄たちの姿が、先ず浮ぶ。
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