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私は屋敷の弁解が出鱈目だとは分っていたが殴る軽部の掌の音があまり激しいのでもう殴るのだけはやめるが良いというと、軽部は急に私の方を振り返って、それでは二人は共謀かという。 だいたい共謀かどうかこういうことは考えれば分るではないかと私はいおうとしてふと考えると、なるほどこれは共謀だと思われないことはないばかりではなくひょっとすると事実は共謀でなくとも共謀と同じ行為であることに気がついた。 全く屋敷に悠々と暗室へなど入れさしておいて主人の仕事の秘密を盗まぬ自身の方が却って悪い行為をしていると思っている私である以上は共謀と同じ行為であるにちがいないので、幾分どきりと胸を刺された思いになりかけたのをわざと図太く構え共謀であろうとなかろうとそれだけ人を殴ればもう十分であろうというと今度は軽部は私にかかって来て、私の顎を突き突きそれでは貴様が屋敷を暗室へ入れたのであろうという。 私は最早や軽部がどんなに私を殴ろうとそんなことよりも今まで殴られていた屋敷の眼前で彼の罪を引き受けて殴られてやる方が屋敷にこれを見よというかのようで全く晴れ晴れとして気持ちが良いのだ。 しかし私はそうして軽部に殴られているうちに今度は不思議にも軽部と私とが示し合せて彼に殴らせてでもいるようでまるで反対に軽部と私とが共謀して打った芝居みたいに思われだすと、却ってこんなにも殴られて平然としていては屋敷に共謀だと思われはすまいかと懸念され始め、ふと屋敷の方を見ると彼は殴られたものが二人であることに満足したものらしく急に元気になって、君、殴れ、というと同時に軽部の背後から彼の頭を続けさまに殴り出した。 すると、私も別に腹は立ててはいないのだが今迄殴られていた痛さのために殴り返す運動が愉快になってぽかぽかと軽部の頭を殴ってみた。 軽部は前後から殴り出されると主力を屋敷に向けて彼を蹴りつけようとしたので私は軽部を背後へ引いて邪魔をすると、その暇に屋敷は軽部を押し倒して馬乗りになってまた殴り続けた。
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