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2020-06-18

機械(18/30)

(810字。目安の読了時間:2分)

それを知られてしまえばここの製作所にとっては莫大な損失であるばかりではない、私にしたっていままでの秘密は秘密ではなくなって生活の面白さがなくなるのだ。 向うが秘密を盗もうとするならこちらはそれを隠したってかまわぬであろう。 と思うと私は屋敷を一途に賊のように疑っていってみようと決心した。 前には私は軽部からそのように疑われたのだが今度は自分が他人を疑う番になったのを感じると、あのとき軽部をその間馬鹿にしていた面白さを思い出してやがては私も屋敷に絶えずあんな面白さを感じさすのであろうかとそんなことまで考えながら、一度は人から馬鹿にされてもみなければとも思い直したりしていよいよ屋敷へ注意をそそいでいった。 ところが屋敷は屋敷で私の眼が光り出したと気附いたのであろうか、それから殆ど私と視線を合さなくてすませる方向ばかりに向き始めた。 あまり今から窮屈な思いをさせては却って今の中に屋敷を逃がしてしまいそうだしするので、なるだけのんきにしなければならぬと柔いでみるのだが眼というものは不思議なもので、同じ認識の高さでうろついている視線というものは一度合すると底まで同時に貫き合うのだ。 そこで私はアモアピカルで真鍮を磨きながらよもやまの話をすすめ、眼だけで彼にも方程式は盗んだかと訊いてみると向うは向うでまだまだと応えるかのように光って来る。 それでは早く盗めば良いではないかというとお前にそれを知られては時間がかかってしょうがないという。 ところが俺の方程式は今の所まだ間違いだらけで盗ったって何の役にも立たぬぞというとそれなら俺が見て直してやろうという。 そういう風に暫く屋敷と私は仕事をしながら私自身の頭の中で黙って会話を続けているうちにだんだん私は一家のうちの誰よりも屋敷に親しみを感じ出した。 前に軽部を有頂天にさせて秘密を饒舌らせてしまった彼の魅力が私へも次第に乗り移って来始めたのだ。

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