ブンゴウメール
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巳之助にはよくのみこめなかった。
電気のことなどまるで知らなかったからだ。
ランプの代りになるものらしいのだが、そうとすれば、電気というものはあかりにちがいあるまい。
あかりなら、家の中にともせばいいわけで、何もあんなとてつもない柱を道のくろに何本もおっ立てることはないじゃないかと、巳之助は思ったのである。
それから一月ほどたって、巳之助がまた大野へ行くと、この間立てられた道のはたの太い柱には、黒い綱のようなものが数本わたされてあった。
黒い綱は、柱の腕木にのっているだるまさんの頭を一まきして次の柱へわたされ、そこでまただるまさんの頭を一まきして次の柱にわたされ、こうしてどこまでもつづいていた。
注意してよく見ると、ところどころの柱から黒い綱が二本ずつだるまさんの頭のところで別れて、家の軒端につながれているのであった。
「へへえ、電気とやらいうもんはあかりがともるもんかと思ったら、これはまるで綱じゃねえか。雀や燕のええ休み場というもんよ」
と巳之助が一人であざわらいながら、知合いの甘酒屋にはいってゆくと、いつも土間のまん中の飯台の上に吊してあった大きなランプが、横の壁の辺に取りかたづけられて、あとにはそのランプをずっと小さくしたような、石油入れのついていない、変なかっこうのランプが、丈夫そうな綱で天井からぶらさげられてあった。
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