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2019-09-24

老妓抄(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(628字。目安の読了時間:2分)

彼は自分でも、自分が今、しかかる素振りに驚きつつ、彼は権威者のように「出せと云ったら、出さないか」と体を嵩張らせて、のそのそとみち子に向って行った。

 自分の一生を小さい陥穽に嵌め込んでしまう危険と、何か不明の牽引力の為めに、危険と判り切ったものへ好んで身を挺して行く絶体絶命の気持ちとが、生れて始めての極度の緊張感を彼から抽き出した。

自己嫌悪に打負かされまいと思って、彼の額から脂汗がたらたらと流れた。

 みち子はその行動をまだ彼の冗談半分の権柄ずくの続きかと思って、ふざけて軽蔑するように眺めていたが、だいぶ模様が違うので途中から急に恐ろしくなった。

 彼女はやや茶の間の方へ退りながら

「誰が出すもんか」と小さく呟いていたが、柚木が彼女の眼を火の出るように見詰めながら、徐々に懐中から一つずつ手を出して彼女の肩にかけると、恐怖のあまり「あっ」と二度ほど小さく叫び、彼女の何の修装もない生地の顔が感情を露出して、眼鼻や口がばらばらに配置された。

「出し給え」「早く出せ」その言葉の意味は空虚で、柚木の腕から太い戦慄が伝って来た。

柚木の大きい咽喉仏がゆっくり生唾を飲むのが感じられた。

 彼女は眼を裂けるように見開いて「ご免なさい」と泣声になって云ったが、柚木はまるで感電者のように、顔を痴呆にして、鈍く蒼ざめ、眼をもとのように据えたままただ戦慄だけをいよいよ激しく両手からみち子の体に伝えていた。

 みち子はついに何ものかを柚木から読み取った。

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