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2019-06-15

猫町(15/16) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(679字。目安の読了時間:2分)

その時もはや、あの不可解な猫の姿は、私の視覚から消えてしまった。

町には何の異常もなく、窓はがらんとして口を開けていた。

往来には何事もなく、退屈の道路が白っちゃけてた。

猫のようなものの姿は、どこにも影さえ見えなかった。

そしてすっかり情態が一変していた。

町には平凡な商家が並び、どこの田舎にも見かけるような、疲れた埃っぽい人たちが、白昼の乾いた街を歩いていた。

あの蠱惑的な不思議な町はどこかまるで消えてしまって、骨牌の裏を返したように、すっかり別の世界が現れていた。

此所に現実している物は、普通の平凡な田舎町。

しかも私のよく知っている、いつものU町の姿ではないか。

そこにはいつもの理髪店が、客の来ない椅子を並べて、白昼の往来を眺めているし、さびれた町の左側には、売れない時計屋が欠伸をして、いつものように戸を閉めている。

すべては私が知ってる通りの、いつもの通りに変化のない、田舎の単調な町である。

 意識が此所まではっきりした時、私は一切のことを了解した。

愚かにも私は、また例の知覚の疾病「三半規管の喪失」にかかったのである。

山で道を迷った時から、私はもはや方位の観念を失喪していた。

私は反対の方へ降りたつもりで、逆にまたU町へ戻って来たのだ。

しかもいつも下車する停車場とは、全くちがった方角から、町の中心へ迷い込んだ。

そこで私はすべての印象を反対に、磁石のあべこべの地位で眺め、上下四方前後左右の逆転した、第四次元の別の宇宙(景色の裏側)を見たのであった。

つまり通俗の常識で解説すれば、私はいわゆる「狐に化かされた」のであった。

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