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2019-06-14

猫町(14/16) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(692字。目安の読了時間:2分)

所々に塔のような物が見え出して来た。

屋根も異様に細長く、瘠せた鶏の脚みたいに、へんに骨ばって畸形に見えた。

「今だ!」

 と恐怖に胸を動悸しながら、思わず私が叫んだ時、或る小さな、黒い、鼠のような動物が、街の真中を走って行った。

私の眼には、それが実によくはっきりと映像された。

何かしら、そこには或る異常な、唐突な、全体の調和を破るような印象が感じられた。

 瞬間。

万象が急に静止し、底の知れない沈黙が横たわった。

何事かわからなかった。

だが次の瞬間には、何人にも想像されない、世にも奇怪な、恐ろしい異変事が現象した。

見れば町の街路に充満して、猫の大集団がうようよと歩いているのだ。

猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。

どこを見ても猫ばかりだ。

そして家々の窓口からは、髭の生えた猫の顔が、額縁の中の絵のようにして、大きく浮き出して現れていた。

 戦慄から、私は殆んど息が止まり、正に昏倒するところであった。

これは人間の住む世界でなくて、猫ばかり住んでる町ではないのか。

一体どうしたと言うのだろう。

こんな現象が信じられるものか。

たしかに今、私の頭脳はどうかしている。

自分は幻影を見ているのだ。

さもなければ狂気したのだ。

私自身の宇宙が、意識のバランスを失って崩壊したのだ。

 私は自分が怖くなった。

或る恐ろしい最後の破滅が、すぐ近い所まで、自分に迫って来るのを強く感じた。

戦慄が闇を走った。

だが次の瞬間、私は意識を回復した。

静かに心を落付ながら、私は今一度目をひらいて、事実の真相を眺め返した。

その時もはや、あの不可解な猫の姿は、私の視覚から消えてしまった。

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