ブンゴウメール
(692字。目安の読了時間:2分)
所々に塔のような物が見え出して来た。
屋根も異様に細長く、瘠せた鶏の脚みたいに、へんに骨ばって畸形に見えた。
「今だ!」
と恐怖に胸を動悸しながら、思わず私が叫んだ時、或る小さな、黒い、鼠のような動物が、街の真中を走って行った。
私の眼には、それが実によくはっきりと映像された。
何かしら、そこには或る異常な、唐突な、全体の調和を破るような印象が感じられた。
瞬間。
万象が急に静止し、底の知れない沈黙が横たわった。
何事かわからなかった。
だが次の瞬間には、何人にも想像されない、世にも奇怪な、恐ろしい異変事が現象した。
見れば町の街路に充満して、猫の大集団がうようよと歩いているのだ。
猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。
どこを見ても猫ばかりだ。
そして家々の窓口からは、髭の生えた猫の顔が、額縁の中の絵のようにして、大きく浮き出して現れていた。
戦慄から、私は殆んど息が止まり、正に昏倒するところであった。
これは人間の住む世界でなくて、猫ばかり住んでる町ではないのか。
一体どうしたと言うのだろう。
こんな現象が信じられるものか。
たしかに今、私の頭脳はどうかしている。
自分は幻影を見ているのだ。
さもなければ狂気したのだ。
私自身の宇宙が、意識のバランスを失って崩壊したのだ。
私は自分が怖くなった。
或る恐ろしい最後の破滅が、すぐ近い所まで、自分に迫って来るのを強く感じた。
戦慄が闇を走った。
だが次の瞬間、私は意識を回復した。
静かに心を落付ながら、私は今一度目をひらいて、事実の真相を眺め返した。
その時もはや、あの不可解な猫の姿は、私の視覚から消えてしまった。
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