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2019-06-07

猫町(7/16) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(777字。目安の読了時間:2分)

都会から来た避暑客は、既に皆帰ってしまって、後には少しばかりの湯治客が、静かに病を養っているのであった。

秋の日影は次第に深く、旅館の侘しい中庭には、木々の落葉が散らばっていた。

私はフランネルの着物をきて、ひとりで裏山などを散歩しながら、所在のない日々の日課をすごしていた。

 私のいる温泉地から、少しばかり離れた所に、三つの小さな町があった、いずれも町というよりは、村というほどの小さな部落であったけれども、その中の一つは相当に小ぢんまりした田舎町で、一通りの日常品も売っているし、都会風の飲食店なども少しはあった。

温泉地からそれらの町へは、いずれも直通の道路があって、毎日定期の乗合馬車が往復していた。

特にその繁華なU町へは、小さな軽便鉄道が布設されていた。

私はしばしばその鉄道で、町へ出かけて行って買物をしたり、時にはまた、女のいる店で酒を飲んだりした。

だが私の実の楽しみは、軽便鉄道に乗ることの途中にあった。

その玩具のような可愛い汽車は、落葉樹の林や、谷間の見える山峡やを、うねうねと曲りながら走って行った。

 或る日私は、軽便鉄道を途中で下車し、徒歩でU町の方へ歩いて行った。

それは見晴しの好い峠の山道を、ひとりでゆっくり歩きたかったからであった。

道は軌道に沿いながら、林の中の不規則な小径を通った。

所々に秋草の花が咲き、赫土の肌が光り、伐られた樹木が横たわっていた。

私は空に浮んだ雲を見ながら、この地方の山中に伝説している、古い口碑のことを考えていた。

概して文化の程度が低く、原始民族のタブーと迷信に包まれているこの地方には、実際色々な伝説や口碑があり、今でもなお多数の人々は、真面目に信じているのである、現に私の宿の女中や、近所の村から湯治に来ている人たちは、一種の恐怖と嫌悪の感情とで、私に様々のことを話してくれた。

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