ブンゴウメール
(751字。目安の読了時間:2分)
そしてどの女にせよ、彼と結ばれて幸福だった女は一人もないのだった。
時の流れるままに、彼は近づきになり、契りをむすび、さて別れただけの話で、恋をしたことはただの一度もなかった。
ほかのものなら何から何までそろっていたけれど、ただ恋だけはなかった。
それがやっと今になって、頭が白くなりはじめた今になって彼は、ちゃんとした本当の恋をしたのである――生まれて初めての恋を。
アンナ・セルゲーヴナと彼とは、とても近しい者同士のように、親身の者同士のように、夫婦同士のように、こまやかな親友同士のように、互いに愛し合っていた。
彼らには運命が手ずから二人をお互いのために予定していたもののように思えて、それを何だって彼に定まった妻があり、彼女に定まった良人があるのやら、いっこうに腑に落ちないのだった。
それはまるで一番いの渡り鳥が、捕えられて別々の籠に養われているようなものだった。
二人はお互いに過去の恥ずかしい所業を宥し合い、現在のこともすべて宥し合って、この二人の恋が彼らをともに生まれ変わらせてしまったように感じるのだった。
もとの彼は、悲しい折々には頭に浮かんで来る手当り次第の理屈でもって自分を慰めていたものだが、今の彼は理屈どころの騒ぎではなく、しみじみと深い同情を感じて、誠実でありたい、優しくありたいと願うのであった。
……
「もうおやめ、いい子だから」と彼は言った。
「それだけ泣いたら、もうたくさん。……今度は話をしようじゃないか、何かひと工夫してみようじゃないか」
それから二人は長いこと相談をしていた。
どうしたら一体、人目を忍んだり、人に嘘をついたり、別々の町に住んだり、久しく会わずにいなければならないような境涯から、抜け出すことができるだろうかということを語り合った。
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