ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」の公式ブログです。

2019-05-14

犬を連れた奥さん(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(703字。目安の読了時間:2分)

そら、こうして」

 彼女は泣きこそしなかったが、まるで病人のように沈んだ様子で、顔をわななかせていた。

「あなたのことは忘れませんわ……いつまでも思い出しますわ」と彼女は言った。

「ご機嫌よう、お仕合せでね。悪くお思いにならないでね。わたくしたち、これっきりもうお別れに致しましょうね。だってそうなんですもの、二度とお目にかかってはなりませんもの。ではご機嫌よう」

 汽車はみるみる出て行き、その燈もまもなく消え失せて、一分の後にはもう音さえ聞こえなかった。

それはちょうど、この甘い夢見心地、この痴れごこちを、一刻も早く断ち切ってやろうと、みんなでわざわざ申し合わせたかのようだった。

で、一人ぽつねんとプラットフォームに居残って、はるかの闇に見入りながら、グーロフはまるでたったいま目が覚めたような気持で、蟋蟀の鳴き声や電線の唸りに耳をすましていた。

そして心の中でこんなことを思うのだった――自分の生涯には現にまた一つ、波瀾とかエピソードとかいったものがあったけれど、それもやっぱりもう済んでしまって、今では思い出が残っているのだ……。

彼は感動して、もの侘しく、かるい悔恨をおぼえるのだった。

思えばあの二度ともう逢う折りもない若い女性も、自分と一緒にいるあいだ幸福とは言えなかったではないか。

愛想よくもしてやったし、親身にいたわってやりもしたけれど、それにしてもあの女に対するこっちの態度や、ことばの調子や、可愛がりようの中にはやっぱり、まんまと幸運を手に入れた男の、それも相手より二倍ちかくも年上の男のかるい嘲笑いや、がさつな思い上がりが、影のように透けて見えるのをどうしようもなかったのだ。

\=========================

ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 

http://bit.ly/2GT2jld

■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv

■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com

■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404

■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001155/files/43644_29257.html

■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail

メール配信の停止はこちら:https://goo.gl/forms/kVz3fE9HdDq5iuA03

-------

配信元: ブンゴウメール編集部

NOT SO BAD, LLC.

Web: https://bungomail.com

Mail: [email protected]

公式サイト

ブンゴウメール

ブンゴウメール

1日3分のメールでムリせず毎月1冊本が読める、忙しいあなたのための読書サポートサービス

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチは、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービスです。