ブンゴウメール
(557字。目安の読了時間:2分)
彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。
いつまでもそこに坐っていることができます。
彼はもう帰るところがないのですから。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。
あるいは「孤独」というものであったかも知れません。
なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。
彼自らが孤独自体でありました。
彼は始めて四方を見廻しました。
頭上に花がありました。
その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。
ひそひそと花が降ります。
それだけのことです。
外には何の秘密もないのでした。
ほど経て彼はただ一つのなまあたたかな何物かを感じました。
そしてそれが彼自身の胸の悲しみであることに気がつきました。
花と虚空の冴えた冷めたさにつつまれて、ほのあたたかいふくらみが、すこしずつ分りかけてくるのでした。
彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。
彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。
すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。
そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。
あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。
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