ブンゴウメール
(603字。目安の読了時間:2分)
全身の力をこめて鬼の手をゆるめました。
その手の隙間から首をぬくと、背中をすべって、どさりと鬼は落ちました。
今度は彼が鬼に組みつく番でした。
鬼の首をしめました。
そして彼がふと気付いたとき、彼は全身の力をこめて女の首をしめつけ、そして女はすでに息絶えていました。
彼の目は霞んでいました。
彼はより大きく目を見開くことを試みましたが、それによって視覚が戻ってきたように感じることができませんでした。
なぜなら、彼のしめ殺したのはさっきと変らず矢張り女で、同じ女の屍体がそこに在るばかりだからでありました。
彼の呼吸はとまりました。
彼の力も、彼の思念も、すべてが同時にとまりました。
女の屍体の上には、すでに幾つかの桜の花びらが落ちてきました。
彼は女をゆさぶりました。
呼びました。
抱きました。
徒労でした。
彼はワッと泣きふしました。
たぶん彼がこの山に住みついてから、この日まで、泣いたことはなかったでしょう。
そして彼が自然に我にかえったとき、彼の背には白い花びらがつもっていました。
そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。
四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。
日頃のような怖れや不安は消えていました。
花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。
ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。
彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。
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