ブンゴウメール
(592字。目安の読了時間:2分)
都ではそんなことはなかったからな」
「始めての日はオンブしてお前を走らせたものだったわね」
「ほんとだ。ずいぶん疲れて、目がまわったものさ」
男は桜の森の花ざかりを忘れてはいませんでした。
然し、この幸福な日に、あの森の花ざかりの下が何ほどのものでしょうか。
彼は怖れていませんでした。
そして桜の森が彼の眼前に現れてきました。
まさしく一面の満開でした。
風に吹かれた花びらがパラパラと落ちています。
土肌の上は一面に花びらがしかれていました。
この花びらはどこから落ちてきたのだろう? なぜなら、花びらの一ひらが落ちたとも思われぬ満開の花のふさが見はるかす頭上にひろがっているからでした。
男は満開の花の下へ歩きこみました。
あたりはひっそりと、だんだん冷めたくなるようでした。
彼はふと女の手が冷めたくなっているのに気がつきました。
俄に不安になりました。
とっさに彼は分りました。
女が鬼であることを。
突然どッという冷めたい風が花の下の四方の涯から吹きよせていました。
男の背中にしがみついているのは、全身が紫色の顔の大きな老婆でした。
その口は耳までさけ、ちぢくれた髪の毛は緑でした。
男は走りました。
振り落そうとしました。
鬼の手に力がこもり彼の喉にくいこみました。
彼の目は見えなくなろうとしました。
彼は夢中でした。
全身の力をこめて鬼の手をゆるめました。
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