ブンゴウメール
(563字。目安の読了時間:2分)
救われた思いがしました。
今までその知覚まで失っていた山の早春の匂いが身にせまって強く冷めたく分るのでした。
男は家へ帰りました。
女は嬉しげに彼を迎えました。
「どこへ行っていたのさ。無理なことを言ってお前を苦しめてすまなかったわね。でも、お前がいなくなってからの私の淋しさを察しておくれな」
女がこんなにやさしいことは今までにないことでした。
男の胸は痛みました。
もうすこしで彼の決意はとけて消えてしまいそうです。
けれども彼は思い決しました。
「俺は山へ帰ることにしたよ」
「私を残してかえ。そんなむごたらしいことがどうしてお前の心に棲むようになったのだろう」
女の眼は怒りに燃えました。
その顔は裏切られた口惜しさで一ぱいでした。
「お前はいつからそんな薄情者になったのよ」
「だからさ。俺は都がきらいなんだ」
「私という者がいてもかえ」
「俺は都に住んでいたくないだけなんだ」
「でも、私がいるじゃないか。お前は私が嫌いになったのかえ。私はお前のいない留守はお前のことばかり考えていたのだよ」
女の目に涙の滴が宿りました。
女の目に涙の宿ったのは始めてのことでした。
女の顔にはもはや怒りは消えていました。
つれなさを恨む切なさのみが溢れていました。
「だってお前は都でなきゃ住むことができないのだろう。
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