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2019-04-24

桜の森の満開の下(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(616字。目安の読了時間:2分)

 空の無限の明暗を走りつづけることは、女を殺すことによって、とめることができます。

そして、空は落ちてきます。

彼はホッとすることができます。

然し、彼の心臓には孔があいているのでした。

彼の胸から鳥の姿が飛び去り、掻き消えているのでした。

 あの女が俺なんだろうか? そして空を無限に直線に飛ぶ鳥が俺自身だったのだろうか? と彼は疑りました。

女を殺すと、俺を殺してしまうのだろうか。

俺は何を考えているのだろう?

 なぜ空を落さねばならないのだか、それも分らなくなっていました。

あらゆる想念が捉えがたいものでありました。

そして想念のひいたあとに残るものは苦痛のみでした。

夜が明けました。

彼は女のいる家へ戻る勇気が失われていました。

そして数日、山中をさまよいました。

 ある朝、目がさめると、彼は桜の花の下にねていました。

その桜の木は一本でした。

桜の木は満開でした。

彼は驚いて飛び起きましたが、それは逃げだすためではありません。

なぜなら、たった一本の桜の木でしたから。

彼は鈴鹿の山の桜の森のことを突然思いだしていたのでした。

あの山の桜の森も花盛りにちがいありません。

彼はなつかしさに吾を忘れ、深い物思いに沈みました。

 山へ帰ろう。

山へ帰るのだ。

なぜこの単純なことを忘れていたのだろう? そして、なぜ空を落すことなどを考え耽っていたのだろう? 彼は悪夢のさめた思いがしました。

救われた思いがしました。

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