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2019-04-14

桜の森の満開の下(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(573字。目安の読了時間:2分)

今年こそ、彼は決意していました。

桜の森の花ざかりのまんなかで、身動きもせずジッと坐っていてみせる。

彼は毎日ひそかに桜の森へでかけて蕾のふくらみをはかっていました。

あと三日、彼は出発を急ぐ女に言いました。

「お前に支度の面倒があるものかね」と女は眉をよせました。

「じらさないでおくれ。都が私をよんでいるのだよ」

「それでも約束があるからね」

「お前がかえ。この山奥に約束した誰がいるのさ」

「それは誰もいないけれども、ね。けれども、約束があるのだよ」

「それはマア珍しいことがあるものだねえ。誰もいなくって誰と約束するのだえ」

 男は嘘がつけなくなりました。

「桜の花が咲くのだよ」

「桜の花と約束したのかえ」

「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」

「どういうわけで」

「桜の森の下へ行ってみなければならないからだよ」

「だから、なぜ行って見なければならないのよ」

「花が咲くからだよ」

「花が咲くから、なぜさ」

「花の下は冷めたい風がはりつめているからだよ」

「花の下にかえ」

「花の下は涯がないからだよ」

「花の下がかえ」

 男は分らなくなってクシャクシャしました。

「私も花の下へ連れて行っておくれ」

「それは、だめだ」

 男はキッパリ言いました。

「一人でなくちゃ、だめなんだ」

 女は苦笑しました。

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