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2019-04-11

桜の森の満開の下(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(607字。目安の読了時間:2分)

彼は納得させられたのです。

かくして一つの美が成りたち、その美に彼が満たされている、それは疑る余地がない、個としては意味をもたない不完全かつ不可解な断片が集まることによって一つの物を完成する、その物を分解すれば無意味なる断片に帰する、それを彼は彼らしく一つの妙なる魔術として納得させられたのでした。

 男は山の木を切りだして女の命じるものを作ります。

何物が、そして何用につくられるのか、彼自身それを作りつつあるうちは知ることが出来ないのでした。

それは胡床と肱掛でした。

胡床はつまり椅子です。

お天気の日、女はこれを外へ出させて、日向に、又、木陰に、腰かけて目をつぶります。

部屋の中では肱掛にもたれて物思いにふけるような、そしてそれは、それを見る男の目にはすべてが異様な、なまめかしく、なやましい姿に外ならぬのでした。

魔術は現実に行われており、彼自らがその魔術の助手でありながら、その行われる魔術の結果に常に訝りそして嘆賞するのでした。

 ビッコの女は朝毎に女の長い黒髪をくしけずります。

そのために用いる水を、男は谷川の特に遠い清水からくみとり、そして特別そのように注意を払う自分の労苦をなつかしみました。

自分自身が魔術の一つの力になりたいということが男の願いになっていました。

そして彼自身くしけずられる黒髪にわが手を加えてみたいものだと思います。

いやよ、そんな手は、と女は男を払いのけて叱ります。

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