ブンゴウメール
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そのとき、この女もつれて行こうか、彼はふと考えて、女の顔をチラと見ると、胸さわぎがして慌てて目をそらしました。
自分の肚が女に知れては大変だという気持が、なぜだか胸に焼け残りました。
★
女は大変なわがまま者でした。
どんなに心をこめた御馳走をこしらえてやっても、必ず不服を言いました。
彼は小鳥や鹿をとりに山を走りました。
猪も熊もとりました。
ビッコの女は木の芽や草の根をさがしてひねもす林間をさまよいました。
然し女は満足を示したことはありません。
「毎日こんなものを私に食えというのかえ」
「だって、飛び切りの御馳走なんだぜ。お前がここへくるまでは、十日に一度ぐらいしかこれだけのものは食わなかったものだ」
「お前は山男だからそれでいいのだろうさ。私の喉は通らないよ。こんな淋しい山奥で、夜の夜長にきくものと云えば梟の声ばかり、せめて食べる物でも都に劣らぬおいしい物が食べられないものかねえ。都の風がどんなものか。その都の風をせきとめられた私の思いのせつなさがどんなものか、お前には察しることも出来ないのだね。お前は私から都の風をもぎとって、その代りにお前の呉れた物といえば鴉や梟の鳴く声ばかり。お前はそれを羞かしいとも、むごたらしいとも思わないのだよ」
女の怨じる言葉の道理が男には呑みこめなかったのです。
なぜなら男は都の風がどんなものだか知りません。
見当もつかないのです。
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