ブンゴウメール
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どういう不安だか、なぜ、不安だか、何が、不安だか、彼には分らぬのです。
女が美しすぎて、彼の魂がそれに吸いよせられていたので、胸の不安の波立ちをさして気にせずにいられただけです。
なんだか、似ているようだな、と彼は思いました。
似たことが、いつか、あった、それは、と彼は考えました。
アア、そうだ、あれだ。
気がつくと彼はびっくりしました。
桜の森の満開の下です。
あの下を通る時に似ていました。
どこが、何が、どんな風に似ているのだか分りません。
けれども、何か、似ていることは、たしかでした。
彼にはいつもそれぐらいのことしか分らず、それから先は分らなくても気にならぬたちの男でした。
山の長い冬が終り、山のてっぺんの方や谷のくぼみに樹の陰に雪はポツポツ残っていましたが、やがて花の季節が訪れようとして春のきざしが空いちめんにかがやいていました。
今年、桜の花が咲いたら、と、彼は考えました。
花の下にさしかかる時はまだそれほどではありません。
それで思いきって花の下へ歩きこみます。
だんだん歩くうちに気が変になり、前も後も右も左も、どっちを見ても上にかぶさる花ばかり、森のまんなかに近づくと怖しさに盲滅法たまらなくなるのでした。
今年はひとつ、あの花ざかりの林のまんなかで、ジッと動かずに、いや、思いきって地べたに坐ってやろう、と彼は考えました。
そのとき、この女もつれて行こうか、彼はふと考えて、女の顔をチラと見ると、胸さわぎがして慌てて目をそらしました。
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