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その人魚は女でありました。
そして妊娠でありました。
私達は、もう長い間、この淋しい、話をするものもない、北の青い海の中で暮らして来たのだから、もはや、明るい、賑(にぎや)かな国は望まないけれど、これから産れる子供に、こんな悲しい、頼りない思いをせめてもさせたくないものだ。
子供から別れて、独りさびしく海の中に暮らすということは、この上もない悲しいことだけれど、子供が何処にいても、仕合せに暮らしてくれたなら、私の喜びは、それにましたことはない。
人間は、この世界の中で一番やさしいものだと聞いている。
そして可哀そうな者や頼りない者は決していじめたり、苦しめたりすることはないと聞いている。
一旦手附けたなら、決して、それを捨てないとも聞いている。
幸い、私達は、みんなよく顔が人間に似ているばかりでなく、胴から上は全部人間そのままなのであるから――魚や獣物の世界でさえ、暮らされるところを見れば――その世界で暮らされないことはない。
一度、人間が手に取り上げて育ててくれたら、決して無慈悲に捨てることもあるまいと思われる。
人魚は、そう思ったのでありました。
せめて、自分の子供だけは、賑やかな、明るい、美しい町で育てて大きくしたいという情から、女の人魚は、子供を陸の上に産み落そうとしたのであります。
そうすれば、自分は、もう二たび我子の顔を見ることは出来ないが、子供は人間の仲間入りをして、幸福に生活をするであろうと思ったからであります。
遥か、彼方には、海岸の小高い山にある神社の燈火がちらちらと波間に見えていました。
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