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2018-08-06

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (6/31)

(677字。目安の読了時間:2分)  それから、小駅を二三通過する間、私達はお互の隅に坐ったまま、遠くから、時々視線をまじえては、気まずく外方を向くことを、繰返していた。 外は全く暗闇になっていた。 窓ガラスに顔を押しつけて覗いて見ても、時たま沖の漁船の舷燈が遠く遠くポッツリと浮んでいる外には、全く何の光りもなかった。 際涯のない暗闇の中に、私達の細長い車室丈けが、たった一つの世界の様に、いつまでもいつまでも、ガタンガタンと動いて行った。 そのほの暗い車室の中に、私達二人丈けを取り残して、全世界が、あらゆる生き物が、跡方もなく消え失せてしまった感じであった。  私達の二等車には、どの駅からも一人の乗客もなかったし、列車ボーイや車掌も一度も姿を見せなかった。 そういう事も今になって考えて見ると、甚だ奇怪に感じられるのである。  私は、四十歳にも六十歳にも見える、西洋の魔術師の様な風采のその男が、段々怖くなって来た。 怖さというものは、外にまぎれる事柄のない場合には、無限に大きく、身体中一杯に拡がって行くものである。 私は遂には、産毛の先までも怖さが満ちて、たまらなくなって、突然立上ると、向うの隅のその男の方へツカツカと歩いて行った。 その男がいとわしく、恐ろしければこそ、私はその男に近づいて行ったのであった。  私は彼と向き合ったクッションへ、そっと腰をおろし、近寄れば一層異様に見える彼の皺だらけの白い顔を、私自身が妖怪ででもある様な、一種不可思議な、顛倒した気持で、目を細く息を殺してじっと覗き込んだものである。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 今なら簡単に100円分のポイントがもらえるキャンペーン中!楽天公式アプリ ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/sUtbi5 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*

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