ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」の公式ブログです。

2018-07-14

【ブンゴウメール】河童 (14/31)

(1359字。目安の読了時間:3分)

 ゲエルはおお声に笑いました。

「それはむしろしあわせでしょう。」

「とにかくわたしは満足しています。しかしこれもあなたの前だけ に、――河童でないあなたの前だけに手放しで吹聴できるのです。 」

「するとつまりクオラックス内閣はゲエル夫人が支配しているので すね。」

「さあそうも言われますかね。……しかし七年前の戦争などはたし かにある雌の河童のために始まったものに違いありません。」

「戦争? この国にも戦争はあったのですか?」

「ありましたとも。将来もいつあるかわかりません。なにしろ隣国 のある限りは、……」

 僕は実際この時はじめて河童の国も国家的に孤立していないことを 知りました。
ゲエルの説明するところによれば、河童はいつも獺(かわうそ)を 仮設敵にしているということです。
しかも獺は河童に負けない軍備を具えているということです。
僕はこの獺を相手に河童の戦争した話に少なからず興味を感じまし た。
(なにしろ河童の強敵に獺のいるなどということは「水虎考略」の 著者はもちろん、「山島民譚集」の著者柳田国男さんさえ知らずに いたらしい新事実ですから。)

「あの戦争の起こる前にはもちろん両国とも油断せずにじっと相手 をうかがっていました。というのはどちらも同じように相手を恐怖 していたからです。そこへこの国にいた獺が一匹、 ある河童の夫婦を訪問しました。そのまた雌の河童というのは亭主 を殺すつもりでいたのです。なにしろ亭主は道楽者でしたからね。 おまけに生命保険のついていたことも多少の誘惑になったかもしれ ません。」

「あなたはその夫婦を御存じですか?」

「ええ、――いや、雄の河童だけは知っています。わたしの妻など はこの河童を悪人のように言っていますがね。しかしわたしに言わ せれば、悪人よりもむしろ雌の河童につかまることを恐れている被 害妄想の多い狂人です。……そこでこの雌の河童は亭主のココアの 茶碗の中へ青化加里を入れておいたのです。 それをまたどう間違えたか、客の獺に飲ませてしまったのです。獺 はもちろん死んでしまいました。それから……」

「それから戦争になったのですか?」

「ええ、あいにくその獺は勲章を持っていたものですからね。」

「戦争はどちらの勝ちになったのですか?」

「もちろんこの国の勝ちになったのです。三十六万九千五百匹の河 童たちはそのために健気にも戦死しました。 しかし敵国に比べれば、そのくらいの損害はなんともありません。 この国にある毛皮という毛皮はたいてい獺の毛皮です。わたしもあ の戦争の時には硝子(ガラス)を製造するほかにも石炭殻を戦地へ 送りました。」

「石炭殻を何にするのですか?」

「もちろん食糧にするのです。我々は、河童は腹さえ減れば、なん でも食うのにきまっていますからね。」

「それは――どうか怒らずにください。それは戦地にいる河童たち には……我々の国では醜聞ですがね。」

「この国でも醜聞には違いありません。しかしわたし自身こう言っ ていれば、だれも醜聞にはしないものです。哲学者のマッグも言っ ているでしょう。『汝(なんじ)の悪は汝自ら言え。 悪はおのずから消滅すべし。

\============================== ================

ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/rcLe78

■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo .gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomai l.notsobad.jp
■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog .notsobad.jp/entry/2018/05/03/ 145404
■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozo ra.gr.jp/cards/000879/files/ 69_14933.html

[PR] 今なら簡単に100円分のポイントがもらえるキャンペーン中!楽 天公式アプリ
▼ ▽ ▼
https://goo.gl/sUtbi5

公式サイト

ブンゴウメール

ブンゴウメール

1日3分のメールでムリせず毎月1冊本が読める、忙しいあなたのための読書サポートサービス

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチは、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービスです。