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2018-06-02

【ブンゴウメール】夢十夜 (2/29)

(737字。目安の読了時間:2分)

そうして天から落ちて来る星の破片(かけ)を墓標(はかじるし) に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢(あ )いに来ますから」

 自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。

「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出 るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ 、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、 待っていられますか」

 自分は黙って首肯(うなず)いた。
女は静かな調子を一段張り上げて、

「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。

「百年、私の墓の傍(そば)に坐って待っていて下さい。きっと逢 いに来ますから」

 自分はただ待っていると答えた。
すると、黒い眸(ひとみ)のなかに鮮(あざやか)に見えた自分の 姿が、ぼうっと崩(くず)れて来た。
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、 女の眼がぱちりと閉じた。
長い睫(まつげ)の間から涙が頬へ垂れた。
――もう死んでいた。

 自分はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。
真珠貝は大きな滑(なめら)かな縁(ふち)の鋭(する)どい貝で あった。
土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。
湿(しめ)った土の匂(におい)もした。
穴はしばらくして掘れた。
女をその中に入れた。
そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。
掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。

 それから星の破片(かけ)の落ちたのを拾って来て、かろく土の上 へ乗せた。
星の破片は丸かった。
長い間大空を落ちている間(ま)に、角(かど)が取れて滑(なめ ら)かになったんだろうと思った。

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