ブンゴウメール公式ブログ

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機械(5/30)

(908字。目安の読了時間:2分) いままでのこの家の悲劇の大部分も実にこの馬鹿げたことばかりなんだがそれにしてもどうしてこんなにここの主人は金銭を落すのか誰にも分らない。落してしまったものはいくら叱ったって嚇したって返って来るものでもなし、そ…

機械(4/30)

(910字。目安の読了時間:2分) …とただ彼をいらいらさせてみるのも彼に人間修養をさせてやるだけだとぐらいに思っておればそれで良ろしい、そう思った私はまるで軽部を眼中におかずにいると、その間に彼の私に対する敵意は急速な調子で進んでいてこの馬鹿…

機械(3/30)

(792字。目安の読了時間:2分) ところが私と一緒に働いているここの職人の軽部は私がこの家の仕事の秘密を盗みに這入って来たどこかの間者だと思い込んだのだ。彼は主人の細君の実家の隣家から来ている男なので何事にでも自由がきくだけにそれだけ主家が第…

機械(2/30)

(878字。目安の読了時間:2分) 全く使い道のない人間というものは誰にも出来かねる箇所だけに不思議に使い道のあるもので、このネームプレート製造所でもいろいろな薬品を使用せねばならぬ仕事の中で私の仕事だけは特に劇薬ばかりで満ちていて、わざわざ使…

機械(1/30)

(749字。目安の読了時間:2分) 初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。観察しているとまだ三つにもならない彼の子供が彼をいやがるからといって親父をいやがる法があるかといって怒っている。畳の上をよちよち歩いているその子供…

ジャン・クリストフ(31/31)

(433字。目安の読了時間:1分) 「うまくは書いてあるかも知れないが、何の意味もない。」――彼はいつも、クリストフの家で催おされる小演奏会に出席したがらなかった。その時の音楽がどんなに立派なものであっても、彼は欠伸をしだし、退屈でぼんやりしてる…

ジャン・クリストフ(30/31)

(510字。目安の読了時間:2分) ゴットフリートの言葉が胸の奥に刻みこまれていた。彼は嘘(うそ)をついたのがはずかしかった。 それで、彼はしつっこく怨んではいたものの、作曲をする時には、今ではいつもゴットフリートのことを考えていた。そしてしば…

ジャン・クリストフ(29/31)

(488字。目安の読了時間:1分) なぜそんなものを書いたんだい?」「知らないよ。」とクリストフは悲しい声でいった。「ただ美しい曲を作りたかったんだよ。」「それだ。お前は書くために書いたんだ。偉い音楽家になりたくて、人にほめられたくて、書いたん…

ジャン・クリストフ(28/31)

(469字。目安の読了時間:1分) 彼はおだやかにクリストフを眺め、その不機嫌な顔を見て、微笑んでいった。「何かほかに作ったのがあるかい? 今のより外のものの方が、おれの気にいるかも知れない。」 クリストフはほかの歌が小父の感じをかえてくれるかも…

ジャン・クリストフ(27/31)

(504字。目安の読了時間:2分) ある晩、ゴットフリートがどうしても歌ってくれそうもなかった時、クリストフは自分が作った小曲を一つ彼に聞かしてやろうと思いついた。それは作るのに大へん骨が折れたし、得意なものであった。自分がどんなに芸術家である…

ジャン・クリストフ(26/31)

(517字。目安の読了時間:2分) ゴットフリートはゆっくり煙草をすい、クリストフは夕闇が怖くて、小父に手をひかれていた。彼等はよく草の上に坐(すわ)った。ゴットフリートはしばらく黙ってたあとで、星や雲の話をしてくれた。土や空気や水のいぶき、ま…

ジャン・クリストフ(25/31)

(514字。目安の読了時間:2分) 「小父さん、もう悲しまないでね。もう意地悪はしないよ。許しておくれよ。僕は小父さんが大好きだ!」しかし彼はいえなかった。――そしていきなり小父の腕の中にとびこんだ。言葉は出なかった。彼はただくり返した。「僕は小…

ジャン・クリストフ(24/31)

(498字。目安の読了時間:1分) 河の向こうの丘からは、鶯(うぐいす)のか弱い歌がひびいてきた。「いったいどんなものを歌う必要があるのか?」ゴットフリートは長い間黙っていてから、ほっと息をしていった。――(自分に向かっていっているのか、クリスト…

ジャン・クリストフ(23/31)

(496字。目安の読了時間:1分) ほかの時だったら、いつもばかにしている小父からあべこべにばかにされるなんて、我慢が出来なかったかもしれない。それにまた理窟で自分をやりこめるほどゴットフリートが利口だなどとは、思いもよらないことだった。彼はや…

ジャン・クリストフ(22/31)

(475字。目安の読了時間:1分) 彼の頭は、祖父の教と子供らしい夢とで一ぱいになっていた。 ゴットフリートは穏かに笑った。クリストフは少しむっとして尋ねた。「なぜ笑うんだい!」 ゴットフリートはいった。「ああ、おれは、おれはつまらない人間さ。」…

ジャン・クリストフ(21/31)

(480字。目安の読了時間:1分) どうして歌をつくるのさ。歌はつくるものじゃないよ。」 子供はいつもの論法でいいはった。「でも、小父さん、一度は誰かがつくったにちがいないよ。」 ゴットフリートは頑として頭を振った。「いつでもあったんだ。」 子供…

ジャン・クリストフ(20/31)

(453字。目安の読了時間:1分) 「いつ出来たの?」「わからないね。」「小父さんの小さい時分にかい?」「おれが生まれる前だ。おれのお父さんが生まれる前、お父さんのお父さんが生まれる前、お父さんのお父さんのそのまたお父さんが生まれる前だ……。この…

ジャン・クリストフ(19/31)

(519字。目安の読了時間:2分) ゆるやかな単純な幼稚な歌で、重々しい寂しげな、そして少し単調な足どりで、決して急がずに進んでゆく――時々長い間やすんで――それからまた行方もかまわず進み出し、夜のうちに消えていった。ごく遠いところからやって来るよ…

ジャン・クリストフ(18/31)

(504字。目安の読了時間:2分) ゴットフリートの顔にうかんでる神秘的な感じに、クリストフも引きこまれていった。地面は影におおわれており、空はあかるかった。星がきらめきだしていた。河の小波が岸にひたひた音をたてていた。クリストフは気がぼうとし…

ジャン・クリストフ(17/31)

(519字。目安の読了時間:2分) クリストフはほかにすることもなかったので、あとからついていった。そしていつもの通り、子犬のようにじゃれついていじめた揚句、とうとう息を切らして、小父の足もとの草の上にねころんだ。腹ばいになって芝生に顔をうずめ…

ジャン・クリストフ(16/31)

(510字。目安の読了時間:2分) 誰かの祝い日になると、きっとやってきて、心をこめて選んだかわいい贈物をポケットからとりだした。誰もお礼をいうのを忘れるほどそれに馴(な)れきっていた。彼の方では、贈物をすることがうれしくて、それだけでもう満足…

ジャン・クリストフ(15/31)

(536字。目安の読了時間:2分) 生きるように、楽しく生きるように頑固に出来上ってる、丈夫な騒々しい荒っぽいクラフト家の人たちの間にあって、いわば人生の外側か端っこにうち捨てられてるこの弱い善良な二人は、今までお互に一言も口には出さなかったが…

ジャン・クリストフ(14/31)

(574字。目安の読了時間:2分) クリストフの祖父と父は、彼を嘲りぎみに軽蔑していた。そのちっぽけな男がおかしく思われたし、行商人という賤(いや)しい身分に自尊心を傷つけられるのだった。彼等はそのことをあからさまに見せつけたが、彼は気づかない…

ジャン・クリストフ(13/31)

(506字。目安の読了時間:2分) すると小父はまっさきに笑いだし、されるままになって少しも怒らなかった。彼はちっぽけな行商人だった。香料、紙類、砂糖菓子、ハンケチ、襟巻、履物、缶詰、暦、小唄集、薬類など、いろんなもののはいってる大きな梱(こり…

ジャン・クリストフ(12/31)

(501字。目安の読了時間:2分) そんなふうに、彼はすっかり甘やかされてだめになるところだった。しかし幸なことに、彼は生まれつき賢い性質だったので、ある一人の男のよい影響をうけて救われた。その男というのは、ほかの人に影響を与えるなどとは自分で…

ジャン・クリストフ(11/31)

(525字。目安の読了時間:2分) …って、一家の光栄、芸術の光栄、祖国の光栄となった時、お前が有名になった時、その時になって、思い出してくれるだろうね、お前を最初に見出し、お前の将来を予言したのは、この年とったお祖父さんだったということをね……」…

ジャン・クリストフ(10/31)

(595字。目安の読了時間:2分) お前よりほかの人に知らせる必要はない。ただ……(ここで彼の声はふるえた)……ただ、あとで、お祖父さんがもういなくなった時、お前はこれを見て、年とったお祖父さんのことを思い出してくれるだろう、ねえ! お祖父さんを忘…

ジャン・クリストフ(9/31)

(481字。目安の読了時間:1分) ジャン・クリストフ・クラフト作品※。 クリストフは目がくらむような気がした。自分の名前、立派な表題、大きな帖面、自分の作品! これがそうなんだ。……彼はまだよく口がきけなかった。「ああ、お祖父さん! お祖父さん!………

ジャン・クリストフ(8/31)

(447字。目安の読了時間:1分) 「考えてごらん。」 クリストフは頭をふった。「わからないよ。」 ほんとうをいえば、思いあたることがあるのだった。どうもこの節は……という気がした。だがそうだとは、いいきれなかった……いいたくなかった。「お祖父さん、…

ジャン・クリストフ(7/31)

(499字。目安の読了時間:1分) 戯曲家としての才能か、音楽家としての才能か、歌い手としての才能か、または舞踊家としての才能か。彼はそのいちばんおしまいのものだと思いたかった。なぜなら、それを立派な才能だと思っていたから。 それから一週間たっ…