ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

武蔵野(22/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (564字。目安の読了時間:2分) 自分たちはある橋の上に立って、流れの上と流れのすそと見比べていた。 光線の具合で流れの趣が絶えず変化している。 水上が突然薄暗くなるかとみると、雲の影が流れとともに、瞬く間に走ってきて自分たちの…

武蔵野(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (598字。目安の読了時間:2分) ただこれぎりなら夏らしくもないが、さて一種の濁った色の霞のようなものが、雲と雲との間をかき乱して、すべての空の模様を動揺、参差、任放、錯雑のありさまとなし、雲を劈く光線と雲より放つ陰翳とが彼方…

武蔵野(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (654字。目安の読了時間:2分) そこで自分は夏の郊外の散歩のどんなにおもしろいかを婆さんの耳にも解るように話してみたがむだであった。 東京の人はのんきだという一語で消されてしまった。 自分らは汗をふきふき、婆さんが剥いてくれる…

武蔵野(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (541字。目安の読了時間:2分) 日は富士の背に落ちんとしていまだまったく落ちず、富士の中腹に群がる雲は黄金色に染まって、見るがうちにさまざまの形に変ずる。 連山の頂は白銀の鎖のような雪がしだいに遠く北に走って、終は暗憺たる雲の…

武蔵野(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (585字。目安の読了時間:2分) はたして変だと驚いてはいけぬ。 その時農家で尋ねてみたまえ、門を出るとすぐ往来ですよと、すげなく答えるだろう。 農家の門を外に出てみるとはたして見覚えある往来、なるほどこれが近路だなと君は思わず…

武蔵野(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (585字。目安の読了時間:2分) はたして変だと驚いてはいけぬ。 その時農家で尋ねてみたまえ、門を出るとすぐ往来ですよと、すげなく答えるだろう。 農家の門を外に出てみるとはたして見覚えある往来、なるほどこれが近路だなと君は思わず…

武蔵野(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分) もし萱原のほうへ下りてゆくと、今まで見えた広い景色がことごとく隠れてしまって、小さな谷の底に出るだろう。 思いがけなく細長い池が萱原と林との間に隠れていたのを発見する。 水は清く澄んで、大空を横…

武蔵野(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (553字。目安の読了時間:2分) 林と野とがかくもよく入り乱れて、生活と自然とがこのように密接している処がどこにあるか。 じつに武蔵野にかかる特殊の路のあるのはこのゆえである。 されば君もし、一の小径を往き、たちまち三条に分かる…

武蔵野(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (595字。目安の読了時間:2分) 野原の径を歩みてはかかるいみじき想いも起こるならんが、武蔵野の路はこれとは異り、相逢わんとて往くとても逢いそこね、相避けんとて歩むも林の回り角で突然出逢うことがあろう。 されば路という路、右にめ…

武蔵野(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (611字。目安の読了時間:2分) 萱原の一端がしだいに高まって、そのはてが天ぎわをかぎっていて、そこへ爪先あがりに登ってみると、林の絶え間を国境に連なる秩父の諸嶺が黒く横たわッていて、あたかも地平線上を走ってはまた地平線下に没…

武蔵野(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (660字。目安の読了時間:2分) しかし大洋のうねりのように高低起伏している。 それも外見には一面の平原のようで、むしろ高台のところどころが低く窪んで小さな浅い谷をなしているといったほうが適当であろう。 この谷の底はたいがい水田…

武蔵野(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (579字。目安の読了時間:2分) 黄いろくからびた刈株をわたッて烈しく吹きつける野分に催されて、そりかえッた細かな落ち葉があわただしく起き上がり、林に沿うた往来を横ぎって、自分の側を駈け通ッた、のらに向かッて壁のようにたつ林の…

武蔵野(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (668字。目安の読了時間:2分) なかば黄いろくなかば緑な林の中に歩いていると、澄みわたった大空が梢々の隙間からのぞかれて日の光は風に動く葉末葉末に砕け、その美しさいいつくされず。 日光とか碓氷とか、天下の名所はともかく、武蔵野…

武蔵野(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (668字。目安の読了時間:2分) なかば黄いろくなかば緑な林の中に歩いていると、澄みわたった大空が梢々の隙間からのぞかれて日の光は風に動く葉末葉末に砕け、その美しさいいつくされず。 日光とか碓氷とか、天下の名所はともかく、武蔵野…

武蔵野(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (635字。目安の読了時間:2分) 自分がかつて北海道の深林で時雨に逢ったことがある、これはまた人跡絶無の大森林であるからその趣はさらに深いが、その代り、武蔵野の時雨のさらに人なつかしく、私語くがごとき趣はない。 秋の中ごろから冬…

武蔵野(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (564字。目安の読了時間:2分) 鳥の羽音、囀る声。 風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。 叢の蔭、林の奥にすだく虫の音。 空車荷車の林を廻り、坂を下り、野路を横ぎる響。 蹄で落葉を蹶散らす音、これは騎兵演習の斥候か、さなくば夫婦…

武蔵野(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (564字。目安の読了時間:2分) 鳥の羽音、囀る声。 風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。 叢の蔭、林の奥にすだく虫の音。 空車荷車の林を廻り、坂を下り、野路を横ぎる響。 蹄で落葉を蹶散らす音、これは騎兵演習の斥候か、さなくば夫婦…

武蔵野(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (638字。目安の読了時間:2分) …りおり日の光りが今ま雨に濡れたばかりの細枝の繁みを漏れて滑りながらに脱けてくるのをあびては、キラキラときらめいた」 すなわちこれはツルゲーネフの書きたるものを二葉亭が訳して「あいびき」と題した…

武蔵野(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (695字。目安の読了時間:2分) それは春先する、おもしろそうな、笑うようなさざめきでもなく、夏のゆるやかなそよぎでもなく、永たらしい話し声でもなく、また末の秋のおどおどした、うそさぶそうなお饒舌りでもなかったが、ただようやく…

武蔵野(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (680字。目安の読了時間:2分) すなわち木はおもに楢の類いで冬はことごとく落葉し、春は滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野いっせいに行なわれて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に、…

武蔵野(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (586字。目安の読了時間:2分) しばらくして薄雲かかり日光寒し」 同二十二日――「雪初めて降る」 三十年一月十三日――「夜更けぬ。風死し林黙す。雪しきりに降る。燈をかかげて戸外をうかがう、降雪火影にきらめきて舞う。ああ武蔵野沈黙す…

武蔵野(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (593字。目安の読了時間:2分) 星光一点、暮色ようやく到り、林影ようやく遠し」 同十八日――「月を蹈んで散歩す、青煙地を這い月光林に砕く」 同十九日――「天晴れ、風清く、露冷やかなり。満目黄葉の中緑樹を雑ゆ。小鳥梢に囀ず。一路人影…

武蔵野(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (630字。目安の読了時間:2分) 林はまだ夏の緑のそのままでありながら空模様が夏とまったく変わってきて雨雲の南風につれて武蔵野の空低くしきりに雨を送るその晴間には日の光水気を帯びてかなたの林に落ちこなたの杜にかがやく。 自分はし…

武蔵野(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (537字。目安の読了時間:2分) それで今、すこしく端緒をここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。 まず自分がかの問に下すべき答は武蔵野の美今も昔に劣らずとの一語である。 昔…

武蔵野(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分) 一 「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。 そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日…

おじいさんのランプ(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分) 思いついたら、深くも考えず、ぱっぱっとやってしまったんだ」 「馬鹿しちゃったね」 と東一君は孫だからえんりょなしにいった。 「うん、馬鹿しちゃった。しかしね、東坊――」 とおじいさんは、きせるを膝の…

おじいさんのランプ(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (425字。目安の読了時間:1分) 「そいじゃ、残りの四十七のランプはどうした?」 と東一君はきいた。 「知らん。次の日、旅の人が見つけて持ってったかも知れない」 「そいじゃ、家にはもう一つもランプなしになっちゃった?」 「うん、ひ…

おじいさんのランプ(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」 と巳之助はいった。 そしてまた一つ石ころを拾った。 二番目に大きかったランプが、パリーンと鳴って消えた。 「世の中は進んだ。電気の時世になった」 三番目の…

おじいさんのランプ(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (418字。目安の読了時間:1分) あかりをしたって寄って来た魚が、水の中にきらりきらりとナイフのように光った。 「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」 と巳之助は一人でいった。 しかし立去りかねて、ながいあいだ両手を垂れたままラン…

おじいさんのランプ(26/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (424字。目安の読了時間:1分) それにみな石油をついだ。 そしていつもあきないに出るときと同じように、車にそれらのランプをつるして、外に出た。 こんどはマッチを忘れずに持って。 道が西の峠にさしかかるあたりに、半田池という大きな…