ブンゴウメール公式ブログ

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2020-09-01

秘密(1/30)

(525字。目安の読了時間:2分) その頃私は或(あ)る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹(つつ)んで居た賑(にぎ)やかな雰囲気を遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い、方々と適当な隠れ家を捜し求めた揚句、浅草の松葉町辺に真言宗の寺のあるのを見附けて、ようよう其処の庫裡の一と間を借り受けることになった。 新堀の溝へついて、菊屋橋から門跡の...

2020-07-31

麦藁帽子(31/31)

(540字。目安の読了時間:2分) ……  そういう父の悲しい物語を聞いているうち、私は漸くはっきり目をさましながら、いつのまにか、こっそり涙を流している自分に気がついた。 しかしそれは私の母の死を悲しんでいるのではなかった。 その悲しみだったなら、それは私がそのためにすぐこうして泣けるには、あまりに大き過ぎる! 私はただ、目をさまして、ふと昨夜の、自分がもう愛していないと思っていたお前...

2020-07-30

麦藁帽子(30/31)

(656字。目安の読了時間:2分) しかし私は、そんな周囲の生き生きとした光景のおかげで、まるでお前たちとキャンプ生活でもしているかのように、ひとりでに心が浮き立った。  私はお前たちと、その天幕の片隅に、一塊りに重なり合いながら、横になった。 寝返りを打つと、私の頭はかならず誰かの頭にぶつかった。 そうして私たちは、いつまでも寝つかれなかった。 ときおり、かなり大きな余震があった。 ...

2020-07-29

麦藁帽子(29/31)

(552字。目安の読了時間:2分) そしてその流し場に、一塊りの血を吐いていた……  その日の午後、誰にもそのことを知らせずに、私は突然T村を立ち去った。      エピロオグ  地震! それは愛の秩序まで引っくり返すものと見える。  私は寄宿舎から、帽子もかぶらずに、草履のまんま、私の家へ駈(か)けつけた。 私の家はもう焼けていた。 私は私の両親の行方を知りようがなかった。 こ...

2020-07-28

麦藁帽子(28/31)

(601字。目安の読了時間:2分) そうして私はますます彼を避けるようにした。 彼は時々悲しげな目つきで私の方を見つめた。 ……私はそのもの云いたげな、しかし去年とはまるっきり異った眼ざしの中に、彼の苦痛を見抜いたように思った。 しかし私自身はと云えば、もうこれらの日が私の少年時の最後の日であるかのように思いなしていたせいか、至極快活に、お前の兄弟たちと遊び戯れることが出来た。  その...

2020-07-27

麦藁帽子(27/31)

(549字。目安の読了時間:2分) 母はそんな私の野心なんかに気づかずに、ただ私の中に蘇(よみがえ)った子供らしさの故に、夢中になって私を愛した。  その高原から帰ると間もなく、私はT村からお前の兄たちの打った一通の電報を受取った。 それは一種の暗号電報だった。 ――「ボンボンオクレ」  私は今度はなんの希望も抱かずに、ただ気弱さから、お前の兄たちの招待をことわり切れずに、T村を三たび...

2020-07-26

麦藁帽子(26/31)

(621字。目安の読了時間:2分) …まったまま、今にもその詩人が私の名を呼んで、その少女たちに紹介してくれやしないかという期待に胸をはずませながら、しかし何食わぬ顔をして、鶏肉屋の店先きに飼われている七面鳥を見つめていた……  しかし少女たちは私の方なんぞは振り向きもしないで、再びがやがやと話しながら、その詩人から離れて行った。 私も出来るだけその方から、そっぽを向いていた。  それか...

2020-07-25

麦藁帽子(25/31)

(682字。目安の読了時間:2分) 落葉松の林の中を歩いていると、突然背後から馬の足音がしたりした。 テニスコオトの附近は、毎日賑(にぎ)やかで、まるで戸外舞踏会が催されているようだった。 そのすぐ裏の教会からはピアノの音が絶えず聞えて……  毎年の夏をその高原で暮らすその詩人は、そこで多くの少女たちとも知合らしかった。 私はその詩人に通りすがりにお時宜をしてゆく、幾たりかの少女のうち...

2020-07-24

麦藁帽子(24/31)

(553字。目安の読了時間:2分)  私は或る日、突然、私のはいることになっている医科を止めて、文科にはいりたいことを母に訴えた。 母はそれを聞きながら、ただ、呆気にとられていた。  それがその秋の最後の日かと思われるような、或る日のことだった。 私は或る友人と学校の裏の細い坂道を上って行った、その時、私は坂の上から、秋の日を浴びながら、二人づれの女学生が下りてくるのを認めた。 私たち...

2020-07-23

麦藁帽子(23/31)

(595字。目安の読了時間:2分) ……そうしてそのために私はへとへとに疲れて、こっそりと泣きながら、出発した。  秋になってから、その青年が突然、私に長い手紙をよこした。 私はその手紙を読みながら、膨れっ面をした。 その手紙の終りの方には、お前が出発するとき、俥(くるま)の上から、彼の方を見つめながら、今にも泣き出しそうな顔をしたことが、まるで田園小説のエピロオグのように書かれてあった...

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